衛星放送協会は、協会会員社が提供する有料・多チャンネル放送の啓蒙、普及発展を推進する団体です。

活動報告

多チャンネル放送研究所 第9回発表会まとめ

2018.01.24

多チャンネル放送研究所では毎年秋にそれまでの一年間の活動をまとめる発表会を行っていますが、今回第9回目は2017年11月28日(火)に明治記念館で開催いたしました。

発表会では研究所の3つのWGがそれぞれの研究内容を発表し、それを受けて所長の音 好宏からまとめの講義を行う形で進められました。概要は次の通りです。

■ ユーザー分析WG
清正 徹 ユーザー分析WG主査

清正 徹 ユーザー分析WG主査
(写真提供:サテマガBI)

2017年~2018年にかけて2年に渡り、映像がどのように利用されているか、見られているかを探る視聴実態調査を実施しており今回はその中間報告となる。
「映像の多様化」がテーマであるが、多様化にはいくつかの要因がある。PC、スマホ、タブレットといった「視聴デバイス(モニター)の多様化」、OTT系事業者による映像サービスや放送事業者による配信サービスなど「映像サービス(プラットフォーム)の多様化」、放送に加えて配信事業者もオリジナルコンテンツを制作、映画/ドラマのコンテンツホルダーが海外から参入など「コンテンツサプライヤーの多様化」など、複雑になっているのが現状である。「テレビを見なくなった」と言われているがテレビ受像機が使われなくなったのか、映像のプラットフォームのニーズが変化してきたのか、コンテンツへの接し方が変化してきたのか、それぞれについて掘り下げて調査する必要がある。

今回の調査は「ここまでの10年に映像の視聴の仕方がどのように変化してきたのか」、「この先10年はどのような視聴のされ方が主流になるのか」について、現在の映像視聴の仕方を深く分析することで今後のヒントを得ることを目的にしている。

2017年7月にインターネットを使った事前定量調査を実施し、映像視聴時間が多い/少ないといった縦軸、情報収集が積極的/消極的といった横軸でユーザーを「先進層(多様な機器を使いこなし、情報収集も積極的)」、「映像親密層(情報感度はさほど高くないものの、映像接触には貪欲)」、「情報関心層(映像の視聴量は少ないものの、情報収集は積極的)」、「低関心層(映像の視聴量が少なく、情報収集は消極的)」の4つのセグメントに分けた。先進層22%、低関心層34.5%、残りが映像親密層、情報関心層といった割合になっている。事前定量調査のデモグラフィックだけでは大きな差は出ていないが、現在利用しているサービスでは映像視聴時間が多いユーザーである「映像親密層」、「先進層」が有料放送の契約、利用率が他の層より高めとなった。一方、情報感度が高いユーザーは有料、無料のOTTの利用率が「映像親密層」、「低関心層」よりも高くなった。認知している放送サービス、配信サービスの数も、情報感度が高いユーザーが放送で4~5サービス、配信で9強ぐらいのサービス数を認知している。また、「映像親密層」、「低関心層」は、平均すると1~2サービスの認知数という結果になった。よく見るジャンルでは大差は無いが、ジャンル数では「先進層」は非常に幅広いジャンルのコンテンツを見られていた。

「先進層」の視聴実態について定点カメラや訪問インタビューを55歳男性と28歳男性の2名に行ったところ、リアルタイムではほとんど見ない「タイムシフト中心」であることや映像サービスの内容、新商品の知識は豊富にあるなどの共通点があるものの、同じ「先進層」においても年齢によって嗜好が異なること、コンテンツを所有するか利用するのか、可処分所得が低い/高いといった分け方も出来、さらに誰と一緒にコンテンツを利用しているのか、自分中心にコンテンツを見ているのか、あるいは家族で視聴することを前提に利用しているのかという分け方も出来た。このようにカテゴリー毎でもさらにいろいろな階層化が進んできており、それぞれの階層で今後仮説を立てて調査する必要がある。定性調査も2件始めたばかりであり、今後さらに多くの家庭を訪問して、最終的にまた定量調査を予定している。明らかにしていきたい課題は、映像の見方の階層化がどのように進んでいるのか、同じ「先進層」でも、こだわり、世代、お金の使い方、家族構成から異なった背景が垣間見える為、今後明らかにしていきたい。また、「先進層」の視聴行動が1マニアにすぎないのか、将来的に「映像親密層」や「情報関心層」へその見方が波及するのかを注視する必要がある。波及する場合、「先進層」の視聴行動が将来的な映像視聴の先駆けとして参考になると考えるが、波及しない場合はそれぞれのカテゴリー、それぞれの階層ごとに異なった視聴形態となっていく可能性もあり、細かく調査していく必要がある。

今後はテレビの見られ方、テレビ受像機の使われ方を調査する必要があり、テレビ受像機で放送以外のサービスがどのように利用されているのか、特に「ながら」で見るコンテンツ、集中して見るコンテンツのすみ分けがどう行われているのか、リアルタイム放送がライフスタイルの中でどのように利用されていくのかをさらに調査していきたい。

■ 将来像予測WG
三塚 洋佑 将来像予測WG主査

三塚 洋佑 将来像予測WG主査
(写真提供:サテマガBI)

多チャンネル放送事業者の収支状況について、分布に大きな変動はないがネット収入の平均がやや増加しており、動画配信等の収入が増加傾向、費用面では前年に続き「番組制作・購入費」の割合が増加しており、オリジナル番組の制作等コンテンツ強化の傾向は変わらない。
これらを受けた収支状況としては、費用面の増加があるものの、昨年比で50.6%が増益と回答している。

加入者の傾向としては、110サービスは横ばい傾向、124/8は毎年約数万件の減少傾向、CATVは660万件前後で推移、IPTVは昨年から減少傾向の見通しで85万件前後横ばいから減少傾向であった。経営課題として、OTTサービスを始めとした配信系のさらなる普及が影響するとの見方が多く、配信PFとしても重視する傾向が如実に表れた。 配信の実施状況でみても、自社PFでは検討段階を含め約半数が実施の方向であるが、他社PFでは7割程度に上る。4Kが市場開拓につながるかという質問に対しては、2017年1月のチャンネル認定があったこともあり、普及につながるとの回答が全体的に増加した。4Kへの取組みとしては、放送事業者として参画するという事業者の割合が33%と昨年比でほぼ倍増した。

2020年時点での放送サービスの状況については、8K高画質化の普及はほとんどなく、4Kの普及、TVの大型化やスマートTVなどハード面の進化・普及とVOD、見逃し視聴など視聴形態の多様化が進む見方が多い。

OTT事業者へのヒアリング調査は3年目を迎え、その総括として、各PFとも共通して動画配信事業が拡大傾向であることやオリジナルコンテンツの重視する点は共通している一方で、コンテンツの調達はPFの特徴に合わせ色が異なる。またVODだけでなく、IPリニア配信サービスを開始する事業者も増加しており、「販売網」や「ポイント連携」、グループ内シナジー、調達手法といった点で他社と差別化を図る傾向にある。

OTT市場をどのようにみるか 映像ソフト市場動向としては、全体で約5,000億円ほどで、昨年と大きな変化はないが、そのうち有料配信は、961億から1,256億円と増加しており、セルやレンタルの割合が相対的に低下しており、今後の予測でみても動画配信市場は堅調に伸びていくと予想されている。潜在ニーズが増加するとともに供給側の数も増加傾向であり、市場競争の激化が進み、飽和状態からプレイヤーの淘汰も予想される。
チャンネル事業者としては、OTT市場は新しいマーケットではあるものの、設備投資や権利処理コストと収益性のバランスをどのようにとるかが課題であろう。

これらのことから、有料放送事業者としては「オリジナルコンテンツの制作・権利保有」「コンテンツの再発掘」による差別化、独自性がますます重要になり、動画配信市場での収益拡大のための武器となる。技術革新によるハード面の変化により視聴スタイルも多様化が予想されその環境を見極めながら対応、進化することで市場全体の拡大にもつながるであろう。

■ コンテンツ論WG
神崎 義久 コンテンツ論WG主査

神崎 義久 コンテンツ論WG主査
(写真提供:サテマガBI)

実態調査の結果から、昨年までは、有料放送事業者はオリジナル番組の強化を進めるとともに、OTT事業者の存在感が高まるにつれ、既存プラットフォーム事業者との関係性は多様化し、OTT事業者を横目に見ながら、コンテンツの差別化および強化に乗り出すという流れが見られた。これに対し今年度の調査結果では、オリジナル番組を制作している事業者の比率は高水準を維持しながらも、それを強化しようという意向は高止まりの気配も見えている。これは、権料の高騰や字幕への対応などで全体としてコスト増となりコンテンツ開発に回す費用が厳しくなってきていること、また投下した制作費の回収方法として他局や配信事業者への番組販売以外の手段を見出すのに苦戦していること、編成の考え方として視聴率重視が進み、視聴率の取れる番組を強化する結果として、競合チャンネル間の編成が似通ってきて差別化が困難になってきていること、といった複合的な要因が重なり合って起こっていると考えられる。

4K・8Kに対する取り組みについては、ノウハウの蓄積や宣伝の強化を目的にプラットフォーム事業者との連携による制作体制を整えて取り組む積極的な事業者がある一方で、制作費や費用対効果といった課題も残っているため消極的な姿勢の事業者も見られた。

また今年度は、東京工業大学の監事で工学博士の榎並和雅先生、慶応義塾大学メディア・コミュニケーション研究所で、憲法・メディア法がご専門の鈴木秀美先生にご協力いただき、榎並先生には主に放送技術の動向、4K8Kの進展、5GやAIが放送業界に与える影響について、鈴木先生にはIPサイマル放送と放送法の改正も含めた見通しや規制緩和などについてお話をうかがった。2020年、さらにそれ以降の放送業界の大きな方向性としては、①現在の4K8Kロードマップのみならず、様々なデバイスで動画が視聴できるようになり、新技術を使って新しいスタイルで映像が見られるようになる中での発展形として、高画質化は確実に進む。②法制度上は放送と通信の垣根は存在するが、技術的には放送と変わらない、または放送を上回るサービスを、通信で提供できるようになる、とのことだった。

多チャンネル放送業界を取り巻く環境は、現状の放送波が軸ではあるもののIPリニアによるサイマル放送という形態が一般化するにつれ、利用者はデバイスを選ばず、放送や配信やチャンネルも区別せず好きなコンテンツを楽しむ、という変化が起こると考えられる。それに伴って新たなサービスの拡がりへの対応が不可避となるが、多チャンネル放送業界がこの大きくかつ急激な変化の潮流にどうやって乗っていこうとするのか。「コンテンツのプロ」であり、「視聴者のニーズに応えるエッジの効いた番組」を生み出していくことが一つの解と考えられるものの、業界全体として世の中にどのようにアピールしていくのか、早急な対応が今後ますます問われるだろう。

■ メディア激変のなかで、多チャンネルはどう生きる
音 好宏 所長

音 好宏 所長
(写真提供:サテマガBI)

ユーザー分析WGではこれまでは、ある特定の世代や階層にフォーカスをあてて調査を行ってきたが、今年は、10周年を見据え大規模な調査を実施することで、今の状況を分析すべく定量的な側面に加え定性的な要素も加えて調査を行った。定性調査では特定の個人を継続的に追いかけて分析する手法を採用した。個人の多様なメディア接触を改めて整理し、そこからある特定の方向性を検出する調査手法は、試行的側面もあるが、今の混沌とした状況を考えると有用性があると考え実施した。今までとはずいぶん違うテレビの見方のフックを感じていただけたのではないかと思うので、来年続きを報告させていただく予定にしている。将来像予測WGでは例年の実態調査に加え、OTT分析3年間の総括を実施した。OTT元年と言われた2年前、OTTは敵か味方か?という議論から始まったが、それから配信業界もずいぶん進化したことを報告させていただいた。コンテンツ論WGではコンテンツという切り口とともに技術的なトレンド、制度的な問題で整理した。全体的にテーマとしては幅広い内容となっているが、それぞれの関心のあるところを深堀し活用いただければと思う。

3つのWG報告を踏まえて整理すると、メディア利用の変化という点では、人口動態の構造的変化とお金を払ってコンテンツを買うことへのシビアさが、実感の薄い景気感によって、より浮き彫りになっていると言える。以前は、「スマホは若者」、「TVはお年寄り」という図式があったが、近年の調査では、お年寄りのTV離れを示す調査結果も出ている。職場でPCを扱っていた方々が60代、70代になってきている状況の一方、若者のスマホ普及が止まり始めている。フェイクニュースに象徴されるように、信頼できる情報を求める風潮が若者間でも表れており、シビアな選択はなされているが、良いものへの価値意識も醸成されつつある。他方、無料動画の普及も強くなってきており、チャンネルの差別化も重要である。

2年前にOTTが台頭してきたことで、コンテンツ調達面に大きな影響があるのではないかという話があったが、問題の本質は「OTTの台頭」のみではないのではないか?ということ。たとえば、競合チャンネルは、視聴率獲得のために似たような編成になることで購入競争が激化しているということをコンテンツ論WGから報告させていただいた。昨年出版の『メディア融合時代到来!』にて、多チャンネルの持っている価値の一つが多チャンネルが多様な社会を提示する、豊かな社会を提示することとまとめさせていただいたが、チャンネルがマーケットと向き合う中で、同質化、類似化という力も受けつつあるのではないかという問題提起をさせていただいた。それだけでなく4Kの本格的なスタートが多チャンネルにとってひとつの起爆剤になる可能性や、5Gといった技術動向が戦略的にどのような形で多チャンネルに有用性があるのか、制度面を追い風にできるかなども多チャンネル放送の環境変化に対応する上で重要な視点である。

昨年も少し触れたテーマでもあるが、多チャンネル放送は転換期を迎えている。OTT市場は厳しい環境下でサービスが行われており、多チャンネルもここ数年厳しい数字が並んでいる。多チャンネルの抜本的な改革が必要で、4Kをはじめとする技術の発展や各種制度をうまく追い風にし、オリジナルで魅力あるコンテンツを提示していくことで、プラスサムのマーケットをいかにデザインできるのかということが問われている。

最後にコンテンツについて触れると、日本のコンテンツは地上波の縛りによって流通ルートはかねてから硬直的であったが、20数年前に立ちあがった衛星・CATVにより多チャンネルのルートが形成され、「じもテレ」のような新しいルートの開拓もされている。今日の報告でも何度かでてきたAbemaTVは、インターネット上で展開しているが実はマスTVを狙っているのではないかという考え方にたつと、多チャンネルのもっているマス性とは何かということをもう一度考え、オリジナルアワードの中でも新しい可能性を感じるコンテンツを武器に、チャンネルルートの在り方を検討することが大切であろう。もちろんそれには多チャンネルを支える“人”であったり、今のマーケットをどう広げていくかを、ともに考えることが必要ではないか。

開催日時 平成29年11月28日(火)13:00~16:30
会場 明治記念館(港区元赤坂)
参加社数 50社 94名

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